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真っ白な雪の中


人から聞いた話

雪を見る度に思い出す事がある。
それは、もう何十年も前の事───

結納の直前、婚約者が別人と心中を図った。
その騒ぎの最中、仕事で大きなミスをやらかし、会社をクビになった。
心労で祖母が寝込んだ。
家中が何だかトゲトゲしくなり、会話さえも凍りがちになった。
自分の所為だな。
何もかも嫌になって、死んでしまおうと思った。
どうせなら、真っ白な雪の中で、永遠の眠りに就こう。
そう思って、北国の温泉場に出かけた。
そこは、南国生まれの自分には想像も付かない程、たくさんの雪に恵まれていた。
こんな中で死ねるなら、最高だ。口笛を吹きたい気分だった。
最後の贅沢とばかり、旅館で美味しい料理と良い風呂を堪能した。
もう、思い残す事は無かった。
散歩に行くようなそぶりで外へ出、山の方へ向かってぶらぶら歩き始めた。
気分が高揚している所為か、ちっとも寒くも辛くも無かった。
しばらく歩いて行くと、明かりの灯った家が1軒ぽつんとあり、その前に白いこんもりとした
“かまくら”が作られていた。
雑誌でしか見た事がなかったから、物珍しく思って近づいて行くと、ロウソクの仄明かりと一緒に、
温もりと良い匂いが漏れて来る。
ひょいと中を覗き込むと、火鉢の前に座る、赤い綿入れの半纏を着たオカッパ頭の少女と目が合った。
勧められるままに上がり込み、暖かい甘酒と香ばしい焼き餅をご馳走になった。
死ぬ前に、こんな好い目に遇えるなんて、幸せ者だな。
そんな風に思った時だった。

少女が無邪気な笑顔でこう言った。
「おまえ、死ぬ気だろ」
はっと思った瞬間、かまくらが崩れた。
「わっ!!」
かろうじて胸から上は出ているものの、胡坐を組んだ足は解く事も出来ないぐらい、しっかり
雪に埋もれている。その冷たさは、直前までの死への思いを翻させるに十分だった。
ハハハ、ハハハハハ
頭上から、笑い声と共に、梢の雪がどさどさ落ちて来た。
仰げば、さっきの少女が樹上から物凄い顔をして、自分を見下ろしている。
先程の優しげな様子は微塵も無い。
「死にたかったんだろう、雪に埋もれて」
寒さと恐さで、歯の根が合わなかった。
ハハハ、ハハハハハ…少女の哄笑が響く。
そして、彼女が枝を揺すると、また新たな雪が自分の周りに落ちて来た。
嫌だ、助けてくれと叫びたかったが、情けない悲鳴しか上げられない。
少女は、恐い眼を自分に据えたまま、冷たく言い放った。
「オレはなあ、7つで死んだぞ。死にたくなかったぞ。おまえはなあ、死にたいんだろ?
アア、死ね。死ね、死ね、死ね。オレがおまえになって生きてやる。だから、死ね!」
不意にその姿が自分そっくりになり、首がにゅうっと伸びた。
「なあ?」
目の前で、真っ赤な眼をした同じ顔が、にやりと笑いかけた…

気が付いた時、小さな地蔵の前でしゃがんでいる自分がいた。
辺りにはただ木立があるばかりで、家に見紛う小屋も無い。
恐怖心が一気に沸き起こり、無我夢中でその場から走って逃げ出した。

───あの時の雪の冷たさは、今でも忘れられない。


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2018-10-17 18:16 : 怖話 : コメント : 0 :
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