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葡萄と桃と坂


「ここから」と、地図上の一点に印をつける。
「ここまで」と、地図上の別の一点に印をつける。
両方の点を定規で一直線に結び、その線に沿って山を突っ切る。

その頃、そんな風にコースを決めていた。
闇雲に直線を引くわけではない。
等高線、方角、水、植生などを見極め、無理そうなら
別の線を引いていた。
それでも、予想外の急斜面に出くわしたり、地図では読みきれない
あれこれに見舞われることが多かった。
俺たちは、そうしたあれこれさえ楽しみのうちだと言い切れる程度に
若く、無茶で、そして無論、馬鹿だった。

ある時、朽ち果てた墓地に踏み込んでしまった。
墓地の入り口だろうと見当をつけた方角に、道はない。
何年どころか、何十年も、誰も墓参りになど来ていないようだった。
いくつかの墓石は倒れ、風雨で流されでもしたのか、地面の一部は
大きくえぐれ、土葬された棺桶でも出てきそうだ。

墓地を横切って斜面を下るというのが、地図に引かれた直線によって
示されたルートだったが、墓地に向かって来ている道の痕跡をたどって
集落跡でも探そうと誰かが言い出し、計画はあっさり変更された。

墓碑が向く方角を探すと、道の跡は簡単に見つかった。
ぼんやりした窪みを探り当て、まだ見ぬ集落を目指した。
下るうちに石段を見つけ、どうやら自分たちは、昔の道を間違いなく
たどっていると確信できた。
緑色の苔に覆われた石段に使われている石の幅は揃っておらず、
一段ごとの高さも一定ではない。
最後尾の俺は足を止め、奇妙な石段だと思い、目を凝らした。

墓石だ。
墓石を寝かし、それを連ねて石段にしてある。
幅や高さが揃っていない理由はそれだと、すぐ分かった。
墓石で石段を作ってある理由、それは分からない。
石段の脇に葡萄の木が生えている。
どこかで、これと似た話を読んだように思った。
石段が尽きたところに、桃の木がある。
振り返った。
何かが俺を追い越した。
何に追い越されたのか、分からない。
上の方で、石段がカタカタと鳴っているような気がした。
音というより振動だった。

葡萄と桃と坂。
神話だ。
神話では登り坂だったが、俺たちは下り坂。
それでも、小さな桃の実をもぎ、上の方へ投げた。
石段を震わしていた振動が収まった。
桃の実など、いくらもない。
思案し、桃の枝を折り、ザックの肩紐にある金属の輪に差した。
そのまま背を向け、歩き出した。

どん、と太い音がした。
振り返る。
石段など、影も形もない。

その後も、道の跡らしきものをたどったが、集落跡はおろか
開けた場所にさえ出なかった。
下山すると、肩紐に差した桃の枝はボロボロだった。
わずか数時間前に折った枝には、とても見えなかった。
山の麓にある神社に枝を持ち込み、どうしていいか分からず、
賽銭箱に置き、皆で一礼に二拍手、そして一礼して帰った。

枝が穢れていたのは確かだったが、あれで祓えたのかどうか。


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2018-10-11 18:13 : 怖話 : コメント : 0 :
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